トップニュース日本海新聞コラム「アートと地域」④住友文彦さん
日本海新聞コラム「アートと地域」④住友文彦さん

連載4回目は、アーツ前橋館長の住友文彦さんです。

住友さんは、10月末に米子で開催された芸術学校の講師として、鳥取県にお越し頂き、鳥取藝住祭で盛り上がる各地域を見て頂きました。

芸術学校の中のトークでは、アートと地域を考える時、「アートにしかできないことがある」と力強く言い切ってくださった住友さん。長期的な視点をもって取り組みを続けていくことの重要性を書いてくださっています。

11月23日(日)、日本海新聞(朝刊)の7面に掲載して頂きました。

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『長期的な文化振興』

私は先日「鳥取藝住祭」の招きで米子、大山、倉吉を訪れた。これが近ごろ盛んな地域の芸術祭と異なるのは、観光客や来場者の獲得を目的にしていないことである。

大規模な芸術祭は遠路人々が訪れる話題づくりになり、にぎわいをつくる一方で、実施のたびに関連団体の動員や一過性のイベントに地元が疲弊していくケースも見受けられる。しかも、これだけ数が増えると相当な覚悟で予算を投じないと埋没する。それに対して、クリエイティブな人材に長期滞在してもらう居住スペースを整備することは、鳥取から新しい作品を生み出す長期的な文化振興として評価されるはずだ。

表現する人にとって必要なのは時間と場所である。過剰な情報や競争は要らない。また、インターネットがあれば自然や人との触れ合いが多い地方都市のほうが豊かな生活ができるという価値観を持ち、大都市を後にする人たちが近年増えている。

私が鳥取で出会ったのは、こうした芸術家たちの感性こそ地域社会に必要と信じる地元の有志たちである。地域の将来を文化によって支えようと考える人たちが「鳥取藝住祭」以前から活動し、それを行政が後から支援と調整しているのも、他の地域とは異なる柔軟性かもしれない。各団体の独自性と自由度を保ちながら、活動を継続できる可能性がある。

とはいえ、主宰する人たちは経済的な問題を中心にいろいろな困難を抱えている。将来への展望を描きづらいかもしれないが、私はこうした動きはたんなるブームではないと考えている。なぜなら、近代以降の芸術は専門的な分野化が進んだため、今は日常生活の感覚との結びつきを再度取り戻そうとしている時代だからである。

これは日本に限らず世界的な傾向である。合理化や効率化が進んだ都市生活や美術館のなかではなく、地域に分け入ろうとする芸術家はこれからも増え続ける。私たちは新しい転換点に立っていると考え、長期的な取り組みをおこなうことが大事ではないだろうか。

(住友文彦|アーツ前橋館長)